中大規模木造建築を検討する中で、必ず出てくるワードの一つにCLTパネル工法があります。そもそもCLTとは何なのか、またどういったメリットやデメリットがあるのかなどCLTパネル工法に関連する基礎知識をまとめました。
CLT(Cross Laminated Timber)とはラミナと呼ばれるひき板を繊維方向が直交するように重ねて接着したパネルのことです。欧米ではマンションや商業施設などの壁や床に多く使用されており、日本でも中大規模木造建築での使用が期待されています。
国土の約7割を森林が占める日本において林業振興のためには国産材の利用が重要な課題としてあります。近代的な建築物の多くは鉄筋コンクリートや鉄骨造で、特に中大規模建築物では木材はあまり積極的には使用されてきませんでした。
しかし全世界で地球温暖化対策が進められる中、木造建築が見直されるようになりました。その中でも中大規模建築物にも耐える強度を持つCLTパネルが注目されるようになり、日本でもゼネコンを中心にCLTを活用した建設が進められています。
CLTの建材としての特性として以下のような点が挙げられます。一般的な木材の弱い面をカバーし、強度もあり柱にも床にも使用が可能。プレカットしたものを使用するので、取り扱いやすいのがポイントです。
工場でプレカット加工した90~210mm厚のCLTパネルを現場で積み上げるのがCLTパネル工法。構造躯体として建物を支えますが従来の鉄筋コンクリートに比べると重量を6分の1程度に抑えられ断熱性にも優れます。
これまで中大規模木造建築を行うためには建材としての強度や均質性、耐火性などの品質の高さに加え、施工には大工の熟練度が要求されました。しかしCLTパネルの登場によって、そうした事情は大きく変化しました。
CLTパネル工法は金物やビス、引きボルトなどでCLTパネルを固定します。継手や仕口といった、以前なら木材を使用していた部分を金物に置き換える金物工法の一つと言えます。そのため、ほぞとほぞ穴を熟練度の高い職人が刻む必要がなくなったのです。
日本古来の伝統的な工法です。基礎の土台に木の柱を立てて梁を水平に渡し、筋交いを斜めに入れて補強することで地震にも耐える強度を維持します。従来は木材と木材を接合し加工するため大工の技術が仕上がりに影響しました。
最近ではプレカット工法を採用したり、接合部に金属を使用するケースも多くなり品質のバラツキは少なくなっています。また壁、床版としてCLTを用いる軸組工法+CLTパネルの組み合わせも可能になっています。
軽量鉄骨と重量鉄骨があります。重量鉄骨は特に強度が高く耐震性や耐久性に優れ、軽量鉄骨は軽くても一定の強度が確保できます。建築デザインの自由度が高くRC造よりも低コストですが防音や断熱性に劣るデメリットもあります。
鉄骨造は面材や筋交いで補強することで耐震性を高めることができますが、厚パネル材として強度があるCLTを用いることも検討されています。また“現し”の構造部材にCLTを利用している例はすでに出てきています。
住宅性能に優れ、耐震性・耐火性・遮音性・断熱性が高い鉄筋コンクリート工法は中大規模建築物に多用されています。他の建材と比べると劣化が起きにくく耐用年数が長いのがメリットですが、重量があり工期が長いのがデメリットです。
CO2削減による温暖化防止の観点からRC造に代わるものとして、CLTを活用した中大規模木造建築プロジェクトが日本でも進められています。1階部分はRC造で2階以上をCLT木造建築とするハイブリッド構造にするケースもあります。
工場でCLTパネルが作られ、現場運ばれるとビスや金物による施工がすぐに開始できるため施工効率がよくなります。またコンクリートにように固まるまで期間も要しません。その結果、CLTパネルを使用することで工期を短縮できます。
多孔質材料である木材は断熱性能が優れ、熱伝導率はコンクリートの約10分の1、鉄の約350分の1と言われます。10cm厚CLTパネルは5cm厚グラスウールと同程度の効果が期待され、断熱性能の底上げができます。
CLTは加工性が高い割に寸法の安定性もしっかりしているのが特徴。RC造やS造のような箱型に限定されることもなく、凹凸のある建物にしたり、壁の開口部も柔軟に設置できるなど自由な設計デザインが可能です。
CLTは防火被覆で炭化を抑制することができますが、その他に燃えしろ設計といって火災時に燃えることを想定した厚みのある木材断面を確保すれば準耐火構造での現しも可能。さらに強化石膏ボードと組み合わせ耐火建築物にすることも可能です。
CLTは集成材なので建材としてよく知られるスギやヒノキなどの木材以外にカラマツ、トドマツなど木材の特性を生かした使い方ができます。そのため森林資源の有効活用ができ、循環型社会の実現にも貢献できます。
コストが高いことがCLTパネルのデメリット。これは国内で製造できるメーカーが限られており、流通量が少ないことがあります。またCLTパネル工法では接合金物が取り付けられるのでその分のコストがかかります。
新しい木造建築材として注目を集めるCLT。優れた性能について理解できても、品質は大丈夫なのか不安という方がいるかもしれません。実は日本において、建築材料の品質は建築基準法で定められています。
第37条「建築材料の品質」で「建築物の基礎、主要構造部に使用する木材、鋼材、コンクリートその他の建築材料は、その品質がJIS(日本工業規格)又はJAS(日本農林規格)に適合するものであること。」となっているのです。参照元:一般財団法人日本建築センター公式サイト https://www.bcj.or.jp/rating/category/quality/
建材として使用される木材はJASの対象で、JAS規格を受けた木材を「JAS構造材」と言います。JASとはJapan Agricultural Standardの略ですが、食品や農林水産品だけでなく建材としての木材にも深く関わります。
直交集成材のCLTも例外ではなく、JAS規格として平成25年12月20日に制定されました。接着の程度や含水準、ラミナや材面の品質、曲げ性能、ホルムアルデヒド放散量などの基準が細かく規定されています。
参照元:農林水産省「直交集成板の日本農林規格」[PDF](https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_clt.pdf)
CLTはJAS規格を受けることにより、環境に優しく温かみを感じるという木の特性に加えて、強度や建材としての安心と信頼を獲得し、非住宅分野の建築物での使用が拡大しつつあります。またCO2削減など環境問題への意識の高まりがその流れを後押ししています。
しかしながら、日本国内においてJAS認定工場は8社で加工まで一貫して行える工場は5社というのが現状。このことがCLTのスムーズな流通を遅らせ、生産コストが高くなる要因ともなっており、今後の改善が求められます。
参照元:日本CLT協会「国内CLT 製造企業一覧」[PDF](https://clta.jp/wp-content/uploads/2021/09/Jas-Approved-CLT-Factory20210610.pdf)
CLTに関してはSDGsやESG評価に対する世界的な関心の高まりと、CLT普及に向けた国をあげた補助金・助成金も整備。現在はゼネコンを中心として中大規模木造建築プロジェクトが複数進められており今後も増えることが予想されます。
内閣官房の公式サイトの資料によれば、CLTを活用した建築物の竣工数は年々増え続けており、令和3年度で累計で710件強の数字が示されています。環境に優しい新しい建築方法としてCLTパネル工法は今後しばらくは活用され続けることでしょう。
その一方で製造工場が一部に限られており、増産のための設備投資に費用がかかり採算がとれないなど、生産・供給体制が追いついていない面もあります。今後メーカー側への補助金などが拡充されれば参入企業も増加し、さらなる拡大が期待できます。
参照元:内閣官房ホームページ「CLTを活用した建築物の竣工件数の推移」[PDF](https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/cltmadoguchi/pdf/clt_expl1.pdf)
CLTの活用はSDGsにつながるとして注目されています。機能面の高さだけではなく、SDGsが掲げる目標に合致する点が多いからです。CLTは環境にも優しく、普及すれば、需要が高まり、地域社会での林業の活性化にもつながることが期待されています。
また、CLTは耐震と耐久性が高い材木としても注目されているのです。林業や木材産業が活性化すれば、地方創生で終わることなく、森林整備が進み、土砂災害などの減少も期待されています。再生可能な森林資源でもあり、他の建材、またはバイオマス発電の燃料としても注目されているのです。
CLTの歴史はオーストラリアからはじまっていますが、まだ登場したばかりですが浅いです。日本でも採用されて間もないですから普及の途中段階といえます。ただ、黎明期だからこそビジネスチャンスがあり、SDGsの意識の高まりとともに需要の増加が期待されています。
普及のためには、CLTの啓蒙活動とともに、多くの設計会社や工務店などが知識と経験を得ることが重要です。そのための取り組みも建設業界が盛り上げるような積極性が求められています。
日本におけるCLTのコストは欧州に比べて高いのが現状で、CLT活用を検討するうえでの課題となっています。一方で、CLTの需要拡大や活用促進を図ろうと新工法や技術開発なども行われており、CLTの製造および施工コストの削減が期待されています。
CLTのコストやコスト減のための取り組みについて
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CLTの活用を促進するために、耐火性能の向上に関する研究が行われています。研究によって2時間耐火構造の性能を持つオール木材のCLTや国内で初の大臣認定を取得した1時間耐火の耐火壁が登場。また、耐防火規制の合理化も行われ、CLTを活用しやすい環境が整いつつあります。
CLTの耐火性能および近年の防火規制について
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Jパネルは国産杉間伐材を3層に組み合わせて作っています。無垢材と違って乾燥し、反ることもなく高い強度を持つのも特徴です。他にも調湿制や温かみもあります。CLTはJAS規格商品で、非住宅物件に使われるのが特徴です。
CLTは原木の丸太の皮を剥いで切断します。ラミナの乾燥を行いますが含水率12%以下です。加工、仕分けでは、かんながけをしたり、長さや幅を揃えたりします。機械も使ってグレード分けをし、高周波プレスでの幅はぎ接着や節埋め加工、コールドプレスでの積層接着、成形と加工という流れです。
中大規模木造建築において遮音性は必要です。CLTパネルは、単体ではあまり遮音性は高いとは言えません。ただし、せっこうボードふかし壁や二重壁による施工、床仕上げ材、二重天井による対策などで遮音性を上げることができます。
主なCLTパネルを用いた工法には、「CLTパネル工法」「軸組工法+CLTパネル」「混構造」の3つがあります。壁パネルを箱単位で繰り返し使用したり、コアを作ったりすることでCLTパネルの特長を活かすことができるでしょう。
CLTパネルは湿度に強いといわれています。木材の繊維が交差している、柱で使われる木材が細いからです。ただし木材であるため、環境や状況、とくに外壁で現しに使う場合にはメンテナンスや対策が求められます。
サミットCLT工法はCLT対応のGIR接合を組み合わせた工法です。サミットHR工法と組み合わせ、木質二方向ラーメン構造での施工も可能です。壁以外にも屋根や床材でも使えます。自由度の高い設計もできるほか、剛性や意匠性などのメリットも得られます。
上記の7つの会社のうちクロスマーク金物の8割以上の品目を取り扱い、自社工場で対応している会社である、3社をピックアップしました。各社の公式WEBサイトにあるクロスマーク金物に関する取り組み情報を参考に選定しています。
建築金物メーカー各社は、規格品以外も製造しておりそれぞれ特色があります。そこでCLTパネル接合用のクロスマーク表示金物関連情報とそれ以外に何を得意としている会社なのかについて調査し、まとめました。
現場視点の企画開発力で特注・OEM品にも強い
工場
会社情報
自社プレカット工場を持ち特注金物に積極的
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会社情報
規格品だけでなく各種オリジナル金物も開発
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※参照元:公益財団法人日本住宅・木材技術センター公式サイト(木造建築物用接合金物承認‧認定金物一覧χマーク表示金物一覧表 令和4年1月1日現在) https://www.howtec.or.jp/publics/index/108/
中大規模木造建築の
接合金物メーカーを調査
ピックアップ3社
大型木造建築で注目される木材、CLT(直交集成板)に使用されるクロス(X)マーク金物。
それらを製作する接合金物メーカーについて調査。さらにその中から3社をピックアップし紹介しています。